2017年4月30日星期日

基本設計のドキュメント構成と作成手順

基本設計のドキュメント構成と作成手順

   第1回で「業務フロー」、第2回で「機能一覧表とI/O関連図」について説明しました。今回は残りのアウトプットを取り上げて、基本設計フェーズのドキュメント標準を完了させることにします。「DUNGEON」の標準で定義されている基本設計工程のアウトプットは、表1の通りです。
工程ドキュメント成果物内容範囲媒体
基本設計
(外部設計)
業務フロー全体Excel
システム構成図全体Excel
ER図全体OBER
テーブル定義書全体OBER
機能一覧表全体Excel
設計書記述様式全体Excel
基本設計書
(外部設計書)
概要
I/O関連図
画面/帳票レイアウト
個別Excel

表1:基本設計工程のドキュメント構成
   基本設計書は機能ごとに表紙I/O関連図画面レイアウトまたは帳票レイアウトで構成されます(図1)。この例では説明の便宜上、画面レイアウトと帳票レイアウトを一緒にしていますが、実際はプロスペクト一覧(画面)とプロスペクト一覧表(帳票)は別々の設計書として起こします。

基本設計書
図1:基本設計書
(画像をクリックするとExcelファイルをダウンロードできます。/58.0KB)
   基本設計フェーズの作業をおおまかに言えば次のような手順で行います。

  1. 業務フロー作成
  2. 機能一覧表作成
  3. 基本設計書(表紙+I/O関連図+画面/帳票レイアウト)作成
  4. テーブル定義(ER図+テーブル定義書)作成

表2:基本設計フェースの作業手順
   最初にユーザ業務のヒアリングを行いながら「業務フロー」を作成し、その中にシステム化対象となる画面や帳票を位置づけます。次にそれらの画面や帳票をサブシステム単位に整理して、「機能一覧表」を作成します。そして1つずつの機能に対して「基本設計書」を作成します。

   基本設計書ではどのデータを使ってどう処理するかをI/O関連図で定義し、具体的な画面・帳票イメージを「画面レイアウト」や「帳票レイアウト」で表します。ユーザが理解しやすいように実際の画面・帳票に近いものを作成して、項目などの確認を行ってもらいます。そして、それらの画面・帳票に表示するデータを考慮したテーブル設計を行い、「ER図」と「テーブル定義書」を作成します。

画面レイアウトと帳票レイアウト

   図1の画面レイアウトの目的はユーザにイメージを見てもらって仕様を確認することです。それと同時に、この後の詳細設計にも流用して使用しますので、作る観点での記述様式も取り入れています。具体的には、表示項目なのか入力項目なのか、数値表示なのか文字表示なのか、半角文字か全角文字か、データ表示の桁数、金額などのカンマ編集、日付の表示パターン、リンクの有無、ラジオボタンやチェックボックスやプルダウンリストなどの使用、スクロールバーの有無、ボタンの配置や表示文字などです。

   図2は表1に含まれている「設計書記述様式」の中から、画面・帳票レイアウトの記述方法の説明箇所を取り出したものです。「設計書記述様式」は設計書の記述ルールを説明するためのもので、第1回で「業務フロー記述様式」、第2回で「I/O関連図の記述様式」を紹介しています。

画面/帳票レイアウトの書式文字
図2:画面/帳票レイアウトの書式文字
(画像をクリックすると別ウィンドウに拡大図を表示します)
   一般の画面レイアウトではデータ部分の表記文字に「X」を使い、「XXXXXX」と表す例が多いと思います。しかし、「X」だけだと情報量が不足するので、DUNGEONでは図2の例のように「6、9、Z、O、B」などの文字を使うようにしています。文字の桁数や全角半角の区別も原則的には設計書に記述した文字通りに記述するルールとなっています。例えば、「OOO」なら全角3文字の表示、「Z,ZZZ,ZZ9.99」ならゼロサプレス付で9百万までの半角数値を小数点2桁で入力できることになります。

   図1の帳票レイアウトの方では入力しないので「9」や「B」は使いませんが、記述書式は画面と統一しています。改行条件、改ページ条件、データの表示順などにつきましては、詳細設計時に追記しますので、ここではイメージだけに留めます。
コラム
Web画面の設計サイズは枠を超えてしまう
   これまでの画面設計は図1の画面レイアウトのような縦横の固定枠でOKでしたが、Webベースの画面の場合は縦がずっと長くなる可能性があります。そのためDUNGEONではExcelの画面レイアウトだけでなく、HTMLで画面を作成したものを設計書に貼り付けるという処理も許可しています。

   なお、ここではExcelを使用していますがExcelには重大な欠点があります。それは、デザインモードで文字が枠内に入っていても、印刷した場合にはみ出てしまう場合があることです。そのためExcelで画面設計を作成する際は、プレビューを確認しながら枠幅を調整する必要があります。DUNGEONはExcelで統一というのが基本構想なのですが、仕方がないので、ここはWordで仕様書を作成することも許可しています。

ER図とテーブル定義書

   画面・帳票レイアウトを作成したら、次はER図とテーブル定義書の作成です。ER図とはEntity Relationship Diagramの略で、データ中心設計(DOA:Data Oriented Approach)に向いたモデリング記法です。ER図はデータベース設計に広く使われており、E(エンティティ)はテーブル、R(リレーション)はテーブルの関係に相当します。図4のようにエンティティを四角、リレーションを線で表わし、リレーショナルデータベースのデータの関連性をわかりやすく示すことができます。

データモデリングツールでER図を作成
図3:データモデリングツールでER図を作成
(画像をクリックすると別ウィンドウに拡大図を表示します)
   実は弊社では、データモデリングを簡単に行うツールを自社開発しており、「SI Object Browser ER」という商品名で販売しています。当然ながら、DUNGEONでもこのツールを使ってデータベース設計を行うことにしており、本ツールから「ER図」や図4のような「テーブル定義書」も出力することができます。

テーブル定義書の例(SI Object Browser ERから出力)
図4:テーブル定義書の例(SI Object Browser ERから出力)
(画像をクリックすると別ウィンドウに拡大図を表示します)
まとめ

   今回は、基本設計フェーズにおけるドキュメントの中から、「画面レイアウト」「帳票レイアウト」の記述様式について説明しました。また、データモデリングツールを使ったER図の作成、テーブル定義書の出力なども紹介しました。これで基本設計フェーズで作成する各ドキュメントのテンプレートとその作成手順の説明は終了です。次回からは詳細設計フェーズに入っていきます。

リンク:
https://thinkit.co.jp/free/project/4/3/1.html

2017年4月27日星期四

SEとPG、どっちが頭がいい?

ちょっと刺戟的な題名をつけました。しかし決して挑戦的な意図があるわけではありません。SEとPGの分業がIT業界にもたらしている問題が今回のテーマです。
●SEとは何か、PGとは何か
 まずそれぞれの職分を正しく認識することからはじめましょう。プログラマ(PG)とはどういう仕事をする人たちでしょうか。
 いうまでもありません。プログラムを作る人たちのことです。大工さんは家を作る人、漁師さんは魚を取る人。こういった人々と同様にPGもその仕事の内容から自明です。
 一方SE――システムエンジニアの方は必ずしもそうではありません。システムのエンジニア? システムの技術者? ひどくあいまいな言葉です。この言葉はじつはもともと英語ではなく、「OL」などと同じ和製英語だといわれます。海外のコンピュータ技術書にもSEという言葉はほとんど見かけません。日本人が適当に言い始めた言葉だとしたら、あいまいなのも当然です。
 それではなぜ日本ではこんな言葉が使われ始めたのでしょう。これは思いっきり個人的意見なのですが、SEは日本にソフトウェア産業が勃興したとき、終身雇用と年功序列型のキャリアパスという企業風土の特色から生まれた日本独特の職種だったのだとわたしは考えています。
●わたしが受けた新人研修
 ちょっと昔のことをお話ししましょう。わたしのIT業界歴は1980年代後半、大学を卒業して、さる金融機関系のソフトウェアハウスに就職したことに始まります。銀行系の子会社のそのまた子会社でした。当時は銀行の第3次オンライン開発というのがあって、ソフトウェア業界は大量に人手を必要としていました。このことを世間では「ソフトウェア危機」と呼んでいました。わたしはそのとき大量に採用されたSE要員の1人です。
 同期の約6割は2カ月のCOBOL研修を受けて現場に配属されましたが、残りの4割はさらに2カ月間のSE講習を受けました。このSE講習、内容はどういうことかというと、一言でいうなら、主に各プログラムをどのように組み合わせて1つの流れにするかという技術です。すなわちこのとき教えられたSEの仕事とは、処理全体の機能を考えて、各ステップの機能を設計し、仕様書に書くことでした。PGはその仕様書をもとにプログラムを作るという分担です。簡潔で一見何の問題もないように見えました。
●いざ現場では
 しかし実際はこの分業は十分に機能していませんでした。SE講習が終わって現場に配属されると、現場のSEはPGをぜんぜん信用していませんでした。PGに仕事をまかせず、全部自分でコーディングしていました。そうした方が早いし確実だというのです。派遣されてきたSEほどその傾向が強かった。おそらく派遣SEさんたちはプロパー社員以上に作業効率を求められるので、プロパー社員の新米PGなど頼むに値しなかったのでしょう。
 当時わたしたちの会社ではプログラミング作業を集中管理して効率を上げようという目的から、「ソフトウェアセンター」という部署を設け、社内のPGを一カ所に集めて作業させる試みを始めていました。ところがSEさんたちはそこに仕事を注文しないで自分たちで作ってしまうのですから、部長は当然渋い顔です。しかし実際問題、そうやってソフトウェアセンターに集められたPGは、仕様書がよくわからないと文句は言うし、テストはいい加減だし、少しも効率は上がりません。よく考えてみれば、このソフトウェアセンターという組織は、企業の中でオフショア開発を始めてしまったようなもので、うまくいくわけがないのです。2年もたたないうちにこの組織は取りやめになりました。
●技術革新は職制を変える
 どうしてこのようなギャップが生まれたのでしょう。わたしが考えるところはこうです。
 わたしが最初に受けたCOBOL講習では、コーディング用紙を使って手書きでプログラムの作成を行っていました。まず原稿用紙のようなマス目の並んだコーディング用紙に鉛筆でソースコードを書き込むのです。それを外部の業者がパンチカードに打ち込み、上がってきたカードをPGが原稿と1行ずつ照合します。打ち間違いがないことを確認すると、データカードと合わせてカードリーダーにかけて機械に読ませ、テストを実行する。バグがあったらカードを抜き取り、自分で打ったカードと差し替える。このような作業環境では、プログラミングとはかなり手間のかかる根気の要る作業でした(このような環境でどうやってデバッグしていたのでしょう?)。
 このような作業をしなければならないのだとしたら、PGとはそれなりに意味のある職分だったでしょう。しかしわたしが実際に現場に配属されてみると、誰もこんな作業はしていませんでした。当時はすでにタイムシェアリング端末によって、SEもPGもエディタが自由に使えるようになっていました。みんなライブラリにアップロードしたソースを自分で手直ししています。そもそも誰も一からプログラムを書いたりしません。みなどこかから似たようなロジックのプログラムを探してきて、部分的に手直しして作ってしまいます。それが一番手早くてバグの起こらない方法だからです。
●形骸化したSE/PG分業
 タイムシェアリング端末という新しい道具がSE/PG分業を時代遅れなものにしてしまっていたのです。コーディングはSEが自分で行っても何の負担にもならないし、むしろPGに依頼すると、仕様を理解させる過程でコストとリスクが発生します。自分でしてしまった方がはるかに生産性が高く確実でした。設計と実装を区別することは現場では事実上、形だけのものになっていたのです。わたしの会社はソフトウェアセンターを廃止すると同時にSE/PG分業を廃止すべきでした。
 ところがそうはなりませんでした。SEという職種は頑強に残り続け、SEを技術的にPGの上位に置く考え方はなおも業界の常識として残っています。これには単にSEとPGの間の関係だけではない複雑な背景があると、わたしは考えています。
●アメリカではPGはえらい
 アメリカではプログラムを実装する人も設計する人もprogrammerと呼ばれます。そもそもPGの社会的地位が高い。プログラミングは大学ではアカデミックな研究の対象です。大学の先生が書いた優れた学術書が何冊もあります。
 COBOLの開発者グレース・マレー・ホッパーは、女性で、軍人で、最後には准将になって、彼女の名前がミサイル巡洋艦に付けられるまでになりました。PGの扱いは日本と外国とでは天と地ほども違うのです。これは、コンピュータ技術の発祥地アメリカではハードウェアとソフトウェアの重要性が同等に評価されて、コンピュータが総合技術として発展してきたことが背景になっているのでしょう。PGを単純労働だなどと誤解する余地などなかったのです。
●産業界とSE/PG
 日本でコンピュータが商業利用され始めたのはIBMの360が普及した1960年代だと思われます。当時日本ではソフトウェアに対する理解が薄く、 OSから言語処理系から基本ソフトウェアを全部アメリカに依存していました(これは今も同じですね)。ソフトウェア製造については学術的な蓄積はなく、ビジネスソフトウェアの作成は企業主導で行われました。そのとき企業の管理者には、コーディング用紙とにらめっこしながらパンチカードの束と格闘しているPGが知的労働者には見えなかったことでしょう。COBOLのプログラムはいくつかのパターンが決まっていて、それを適用して量産することもできました。これゆえ日本の産業界ではPGは「単純労働者」と位置づけられてしまったのだと思います。
 日本の企業は最近まで終身雇用制だったといわれます。それが崩壊して今日さまざまな雇用問題を引き起こしているわけですが、しかし終身雇用制が健在だった時代も、すべての雇用者が定年まで働くことができたわけではありません。業務形態によりますが、単純作業労働を大量に必要とする産業では、比較的賃金の安い労働者を雇用して働かせる必要がありました。そのため企業は、若年者の賃金を低く抑え、一部の従業員には勤続年数が上がって給料が増える前に辞めてもらうようにしていました。
 この雇用形態にぴったりはまっていたのが女性労働者です。女性は雇用されても男性と同じキャリアコースに乗ることはなく、 30歳前には結婚して退職することが暗黙の了解となっていました(いまだにそのような風土を残す企業もあるかもしれません)。企業は「結婚=女性の幸せ」という価値観を利用して一部の単純作業労働者を辞めさせることで、終身雇用という建前を守っていたのです。
 かつてはソフトウェア開発もこのような形態をとっていました。わたしが就職したときには、PGとして働いていた社員の半数以上は女性でした。今では考えられないことです。彼女たちは非能率なパンチカードによるコーディング作業を黙々とこなし、5年も勤めると誰かに見初められ、結婚し、仕事を辞めていったのです。今でも古くから使われているシステムには、彼女たちが作ったプログラムが現役で動いているかもしれません。時にそのソースコードはよくレイアウトされた印刷物のように美しく整えられていたりして、彼女たちの「意地」を感じさせられます。
●「スキル目標」としてのSE
 その一方で男子従業員は会社に残って技術の中核を担っていくことを求められました。彼らにがんばってもらうには、彼らを単純労働者としてのPGとは差別化する必要がありました。SE(システムエンジニア)というあいまいな言葉は、このようにして社員に技術の向上を促すキャリアステップという意味で使われ出したのではないかと思います。
 以上のことをまとめていうと次のようになります。本来ソフトウェア作成の高度な技術の担い手であったPGは、日本ではその現実的な作業形態から「単純労働者」と考えられてしまった、そのためソフト作成の知的性格を表現する言葉として「SE」という言葉が使われるようになったのです。
 これだけならば「システムエンジニア」という言葉は別に害になるものでもなく、たんに上級PGという意味を表す日本独特の業界用語ということに収まったでしょう。ところが実際にはこれによって生まれるSE/PGの区別が厄介な問題を引き起こすことになりました。
●1990年代に起こった変化
 1990年代になってCOBOL開発に呼ばれたことがあります。その頃にはもう開発現場に女性の姿はなく、男ばかりの世界になっていましたが、当時は気にもとめませんでした。ゆっくりした変化はなかなか気付きにくいものです。このときは気付かなかったもう1つの重要な変化がありました。それは設計作業をしているのは元請会社の社員で、実装作業をしているのはもっぱらよそから派遣されてきた外注PGだったことです。
 このときの開発のエンドユーザーは旅館業です。テレビCMでも聞いたことがある伊豆の有名旅館の客室管理システムをOAで作ろうとしていました。実装している外注PGには、十分にスキルのある中堅どころがそろっていました。それに対して設計しているのはプロパーの若手社員。設計力のレベルに不満があったのでしょう、元請の先輩社員がしきりに後輩を叱咤していたのが印象に残っています。
 ソフトウェア開発では早くから派遣労働が普及していました。これは作業の専門性からいって仕方のないことですし、少なくともこの頃のCOBOLの開発現場では、派遣労働を正当に評価してもらっていましたから不利になったという感じはありませんでした。むしろプロパー社員のがんばりに感心していたくらいです。しかし今から考えるとそんなことより、その元請がスキルに不安のある自社社員をあえて設計に起用していたことに疑問を持つべきでした。この会社では設計とプログラミングを分け、後者をアウトソーシングしていたのです。
●アウトソーシングとSE/PG
 ここでソフトウェア開発でなぜアウトソーシングが増えるのか考えてみましょう。製造作業の一部を外注することのメリットを理解するには、損益分岐点分析というちょっと面倒な原価計算の理屈が必要になるのですが、かいつまんで説明すると、固定費である労務費を変動費である外注費に切り替えたほうが、利益が出るようになる売上高、「損益分岐点」が低くなるのです(注)

 売上高を急激に伸ばすことが期待できないソフトウェア開発では、固定費を少なくする方が有利です。日本のIT産業は、かつては女性の結婚退職を隠れ蓑に、ひそかに高齢になった労働者の一部を排除することで非効率な部門の固定費を削減していたわけですが、男女雇用機会均等法の制定などでそのようなことができなくなり、その代わりに固定費をアウトソーシングという形で変動費に変える道を選んだのです。
 まあ、以上のようなことは本当はきちんとしたデータをもとにして主張しなければならないことで、その意味ではこれはまったくのわたしの仮説にすぎません。しかし今日、日本のSIerの多くが企業利益のためにアウトソーシングを積極的に行い、その外部委託作業を切り分けるためにSE/PG分業を境目にしていることは、だれもが認めることでしょう。
 このアウトソーシングによる利益設計、すなわちビジネスモデルは、プログラミング作業に対するある先入見――プログラミングは単純作業であるという思い込みにもとづいています。PGは使い捨てにしても構わないが、SEは設計という「高度な」作業をして、顧客の業務知識を蓄積していってくれると。日本のIT企業のトップはどうしてこの誤った認識を改めることができないのでしょう。それが事実に見えた時代が一時はあったにせよ、少しでも現場に目を向けていればその誤りを容易に理解できることでしょうに。まるきり古い時代の、実質的に意味のなくなった分業区分をいつまでも有効であると信じている。間違った区分で外部委託の範囲を決めたことが、どれほどの問題を引き起こしていることか。
 その実態については、長くなりますので次回に述べたいと思います。
●PGは単純作業ではない
 これはわたしの持論ですが、プログラミングとは究極の「手仕事」です。どんなに技術が進んでもプログラミングという作業は残る。それは絶対にコンピュータにはできないことなのです。なぜならそれはコンピュータがすることを前もって考えることなのですから。この手仕事は職人仕事の性格を持っています。品質が製作者個人のスキルに大きく依存しています。しかもそのスキルはパターン化することができず、訓練では身につかない。PG個人の強い自発性がなければスキルアップしない。
 プログラムは、どんなものでも個人の技術の力量が問われる知的著作物です。上手な人が書いたプログラムは、まるで物理学の方程式のように美しい。そんなプログラムは当然バグも少ない。あっても見つけやすいのです。それがまるで大量生産品のように思われているのは、そういう作り方をすればできてしまうからです。困ったことにそれでもシステムは動いてしまうのです。
 経営者の方はこういうかもしれません。「なるほど、たしかにプログラミングは職人仕事かもしれない。優秀なPGを使えば品質の高いプログラムを作ることができるだろう。しかし優秀なPGを探すのは大変なことだ。安い労働力を使った大量生産方式でも、動くプログラムができるならそれでいいじゃないか」と。
 しかし考えてみてください。プログラムのほんの小さなバグがシステム全体に影響を与えるのです。1箱に不良品が3%以下なら許容できるというような話ではないのです。最近銀行のシステム統合で頻発した不具合のことを思い起こせば、その影響が理解できるでしょう。
 プログラマを粗末にしたらバチがあたりますよ。

2017年4月25日星期二

一級文法

1 ~いかん
「名(ーの)」+いかん ~がどのようであるか・~によって・~次第で 会社の発展は、社員の働きいかんにかかっている。
主に改まった場面で用いられる 試験の結果いかんでは、卒業できないこともある。
「いかんともしがたい」<残念だがどうにもできない> 助けてやりたい気持ちはやまやまだが、私の力ではいかんともしがたい。
「いかんせん」<残念だが(どうにもしようがない)> 新しいパソコンを購入したいのだが、いかんせん予算がない。

2 ~いかんによらず/~いかんにかかわらず/~いかんを問わず
「名ーの」+いかんによらず/いかんにかかわらず/いかんを問わず ~がどうのようであるかに関係なく 国民の賛意のいかんにかかわらず、その法案は国会で可決されるだろう。
主に改まった場面で用いられる 理由のいかんによらず、殺人は許されないことだ。
国籍のいかんを問わず、採用試験を受けることのできる自治体が増えている。

3 ~(よ)うが/~(よ)うと
「動ー意向形」/「い形ーかろう」/「な形ーだろう」+が/と ~しても・~でも 周囲がいかに反対しようが、自分でやる決めたことは最後までやりぬくつもりだ。
どんなに入院費が高かろうが、支払わざるを得ない。
彼が政治家として有力だろうと、法を侵したからには逮捕されるのは当然のことだ。

4 ~(よ)うが~まいが/~(よ)うと~まいと
「動ー意向形」+が/と+「動ー辞書形」+まいが/まいと ~しても~しなくても 昔の恋人が結婚しようとしまいと、今の私には関係ないことです。
同じ動詞を二度繰り返して使う。ⅡグループまたはⅢグループの動詞 雨が降ろうが降るまいが、私は出かけます。
の場合は「~まいが」の前には「ない形」も使われる。

5 ~(よ)うにも~ない
「動ー意向形」+にも+「動ーない形」+ない ~しようとしてもできない・~したいのにできない 頭が痛くて、起きようにも起きられなかった。
同じ動詞を二度繰り返して使う場合、後ろの動詞は可能を表す動詞が使われる。 お金がなくて、新しいパソコンを買おうにも買わない。
会社をやめようにも次の仕事が見つからない。

6 ~かぎりだ
「い形ーい」/「な形ーな」/「名ーの」+かぎりだ とても~だ・たいへん~だ 山道で日が暮れて、心細いかぎりでした。
「~かぎりだ」の前には、上記の例のほかに次のような感情を表す形容詞 お祝いのパーティーに出席できないとは、残念なかぎりでございます。
がくることが多い。 みんなに入学を祝福されて、うれしさのかぎりだった。
「喜ばしい」「腹立たしい」「嘆かわしい」「心強い」「うらやましい」など

7 ~がてら
「動ーます形」/「名」+がてら ~のついでに お近くにお越しの折には、お遊びがてら、お寄りください。
散歩がてら、たばこを買って来よう。

8 ~が早いか
「動ー辞書形/た形」+が早いか ~とすぐに 私の顔を見るが早いに、彼は性急にしゃべり始めた。
続けてすぐに後の動作をする、あるいはその瞬間に何かが起こる様子を表す。 地震だと叫ぶが早いか、子供たちは机の下にも潜り込んだ。
ベルが鳴ったが早いか、生徒たちは教室を飛び出して行った。

9 ~きらいがある
「動ー辞書形」/「名ーの」+きらいがある ~傾向がある 彼は最近、どうも飲みすぎのきらいがある。
悪い内容を表すことが多い。 多くの中高年サラリーマンは仕事に追われて、健康管理を怠るきらいがあると言われている。

10 ~ずにはすまない
「動ーない形」+ずにはすまない ~しないままでは許されない・~しないでは事が終らない おわびのしるしに何かお贈りせずにはすまないでしょう。
「する」は「せずにはすまない」となる。 自分の義務感や、周囲の状況、社会的な常識などから考えて、 部下の失敗に対して、上役は責任をとらずにはすまないものだ。
何かしなければ許されない、あるいは物事が解決しないという時の表現。

11 ~(で)すら
「名(ーで)」+すら ~さえ 彼女は寝る時間すら惜しんで、研究に没頭している。
強調の表現 疲れて、立っていることすらできなかった。
そんな易しい漢字は、小学生ですら読める。

12 ~そばから
「動ー辞書形/た形」+そばから ~とすぐに 庭をきれいに掃く側から落ち葉が散っている。
次々に同じことを繰り返している様子を表す。 聞いたそばから忘れてしまうなんて、我ながら情けない。

13 ただ~のみ
ただ+「動ー辞書形」/「い形ーい」/「名」+のみ ~だけ 親友が転校してしまい、私の心にはただ寂しさのみが残った。
今はただ事故にあった方々の無事を祈るのみです。
祖母にとっては、ただ苦しいのみの人生だったのだろうか。

14 ただ~のみならず
ただ+「動・い形・な形・名」の普通形+のみならず ~だけではなく 彼女は、倒れていた老人をただ介抱したのみならず、家まで送り届けました。
「な形」の「だ」は「である」になる。「名」の「だ」はつかないか、「である」になる。 文語体。「AのみならずB(まで)(も)」の形でも用いられ、「ただ」がつくと、 富士山はただ高いのみならず、姿も美しいので、日本の象徴として愛されている。
より強調される。A、Bには対照的、並立的あるいは類似の内容がくる。 彼はただ勇敢であるのみならず、優しい心の持ち主でもある。
彼女はただ友人たちのみならず、先生方からも信頼されている。

15 ~たところで
「動ーた形」+ところで ~ても 今さらぐちをいったところで、どうにもならない。
逆接の仮定表現。仮定した内容が無駄なこと、役に立たないこと、予期に反することや、 約束の時間にこんなに遅れては、行ってみたところで、だれもいないだろう。
結果にあまり影響を及ぼさないことになるという話し手の判断を表す。 今回参加できなかったところで、また次回にチャンスがあるだろう。

16 ~っぱなし
「動ーます形」+っぱなし ~たまま 新幹線が込んで、大阪から東京までずっと立ちっぱなしだった。
自動詞の場合は「~たまま変化がない」。他動詞の場合は「~たままそのあと何もしない」と、 弟は何でもやりっぱなしで、いつも母に後始末をしてもらっている。
話し手の不満や非難の気持ちを含むことが多い。

17 ~であれ/~である~であれ
「名」+であれ/「名」+であれ+「名」+であれ ~でも/~でも~でも たとえ国王であれ、国民全てを従わせることができるわけではない。
「AであれBであれ」の場合、AとBには対照的、並立的あるいは類似の内容がくる。 何であれ、必要ならば買わなければならない。
正社員であれパートであれ、仕事に対する責任は変わりません。

18 ~てからというもの
「動ーて形」+からというもの ~てから後はずっと 娘が帰って来てからというもの、年老いた父親は見違えるほど元気になった。
「AてからというものB」はAがあってその後、それが原因でずっとBのようになっていることを表す。 水泳を習い始めてからというもの、冬でも風邪を引かなくなった。

19 ~ではあるまいし/~じゃあるまいし
「動ーます形/た形+の/ん」/「名」+ではあるまいし/じゃあるまいし ~ではないのだから 幽霊が現れたんじゃあるまいし、そんな驚いた顔をするなよ。
「~じゃないのだから」は話し言葉。 冬山登山をするのではあるまいし、大げさな格好は要りません。
子供ではあるまいし、暗い所が怖いなんて、おかしいですね。

20 ~とあって
「動・い形・な形・名」の普通形+とあって ~ので このホテルは交通の便がいいとあって、ビジネスマンの出張によく使われる。
「な形」と「名」の「だ」はつかないことが多い。 人気スターがやって来るとあって、大勢の人たちが持ち受けていた。
そのクイズは景品が豪華とあって、応募が殺到している。
開店セールとあって、店内は押すな押すなのにぎわいだった。

21 ~とあれば
「動・い形・な形・名」の普通形+とあれば ~なら 家賃が安く、日当たりがよくて、その上静かとあれば、古いアパートでも借り手はあるだろう。
「な形」と「名」の「だ」はつかないことが多い。 遠来の客が来るとあれば、腕をふるってご馳走をたくさん用意しよう。
だれも手伝ってくれないとあれば、私が一人でやるしかないだろう。
体が大きく、足腰が強いとあれば、ラグビー選手にはうってつけた。
子供のためとあれば、親は何をおいてもできる限りのことをするものです。

22 ~といい~といい
「名」+といい+「名」+といい ~も~も 手といい足といい、引っかき傷だらけだった。
「AといいBといい」の形で、A、Bには対照的、並立的あるいは類似の内容を例示する。 このドレス、色といいデザインといい、お客様によくお似合いですよ。
「AといわずBといわず」<AもBも(さらに全体が、その状態になっている。)> 手といわず足といわず、引っかき傷だらけだった。
<手も足もさらに全身が引っかき傷だらけだった。>

23 ~といえども
「動・い形・な形・名」の普通形+といえども ~けれども・~ても いかに多忙といえども、健康管理を怠ってはならない。
「な形」と「名」の「だ」はつかないことが多い。 文語体の逆接の表現。「いかに~といえども」や「たとえ~といえども」のような形をとると、 近年、医学がめざましく進捗したといえども、病人の数は減少傾向にはない。
特別な、あるいは極端な内容を強調する表現となる。 たとえ外国人といてども、「郷に入っては郷に従え」のことわざ通りです。
「老いたりといえども」<文語体で「年をとっているけれども」の意味。> 老いたりといえども、まだまだ若い者には負けないつもりだ。

24 ~と思いきや
「動・い形・な形・名」の普通形+と思いきや ~と思ったけれども 前進を続けると思いきや、リーダーは退却の命令を発した。
「な形」と「名」の「だ」はつかないことが多い。 文語体。結果が思っていた内容に反する時に用いる。 あわやアウトと思いきや、審判はセーフと宣した。

25 ~ときたら
「名」+ときたら ~は あいつときたら、いつも遅れて来るんだから。頭に来るよ。
特に話題に取り上げる時の表現。後ろの分に否定的、非難の内容がくることが多い。 隣の犬ときたら、人が通る度にキャンキャンほえて、うるさくてたまらない。

26 ~ところを
「動ー辞書形/た形」/「い形ーい」/「な形ーな」/「名」+ところを ~時(なの)に・~状況(なの)に その試合は、もう少しで終るところを、雨で中断された。
お忙しいところをおいでくださいまして、ありがとうございます。
お休みのところをお邪魔いたしまして、申し訳ありません。

27 ~としたところで/~としたって/~にしたところで/~にしたって
「動・い形・な形・名」の普通形+としたところで/としたって/にしたところで/にしたって ~としても・~にしても 彼がどんなに歌が得意としたって、素人の域を出ていないと。
「な形」と「名」の「だ」はつかないことが多い。 立場や条件を考える時の表現。「~としたところで」などの後ろにくる内容は 全員が参加するとしたところで、せいぜい30人位だ。
否定的なものであることが多い。 野党はその法案に反対しているが、野党にしたところで、ほかによい代案があるわけではない。
「~したって」は話し言葉。 わたしにしたって、それについてはどうしていいかわからないんです。

28 ~とはいえ
「動・い形・な形・名」の普通形+とはいえ ~といっても・~でも 幼いとはいえ、その子は自分なりに家の事情を理解している。
「な形」と「名」の「だ」はつかないことが多い。 「AとはいえB」は「Aは事実だが、しかし実際はB」の意味。 向こうの言い分も分かったとはいえ、心から納得したわけではない。
春とはいえ、まだまだ寒い日が続いております。

29 ~とばかりに
「動ー普通形/命令形」/「い形・な形・名」の普通形+とばかりに いかにも~というように 彼は、私に早く帰れとばかりに、書類を片付けはじめた。
「な形」と「名」の「だ」はつかないことが多い。 彼女が舞台に登場すると、客席から待っていたとばかりに大きな拍手が起こった。
彼女は、意外だとばかりに、口を開けたまま彼を見つめていた。
「~と言わんばかりに」<いかにも~と言いたそうに(~とは言わないが、 彼は、何も聞きたくないと言わんばかりに、ぷいと横を向いた。
言いたい気持ちが後の態度や様子に表れている。)>

30 ~ないではすまない
「動ーない形」+ないではすまない ~ないままでは許されない・~ないでは終らない この雰囲気では、会議は一荒れしないではすまないだろう。
本人の義務感や周囲の状況、社会的な常識などから、何かしなければ許されない、 あんな高価な物を壊したのだから、弁償しないではすまない。
あるいは物事が解決しないという時の表現。

31 ~ながらも
「動ーます形/ない形ーない」/「い形ーい」/「な形ー◯」/「名」+ながらも ~けれども その職人は古い伝統を守りながらも、新しい工夫を重ねれいる。
うまくできないながらも、なんとか努力してみた。
「狭いながらも、楽しい我が家」と言うように、自分の家が一番ですね。
最近は小型ながらも、優れた機能を備えたパソコンが出回っている。

32 ~なり
「動ー辞書形」+なり ~とすぐ 友人は部屋に入って来るなり、どっかりと腰をおろした。
続いてすぐに後の動作をする時の表現。 父は深夜に帰宅した弟の顔を見るなり、怒鳴りつけた。

33 ~なりに/~なりの
「動・い形・な形・名」の普通形+なりに/なりの ~に応じて・~にふさわしく 若者には若者なりの悩みがある。
「な形」と「名」の「だ」はつかない。 「~なりに」の後ろには動詞・形容詞・副詞が、「~なりの」の後ろには名詞が来る。 収入が増えれば増えたなりに、支出も多くなっていく。
部屋が狭ければ狭いなりに、工夫して使っています。
子供は子供なりに、自分の世界をもっているものだ。

34 ~にあって
「名」+にあって ~に・~で 彼女は戦時中、思想統制下にあってなお、自由な精神を持ち続けた。
時、機会、場所、状況、場合などをとりたてて示す固い表現。 動物の世界にあっても、親子の情愛は変わらないものだ。

35 ~に至る/~に至るまで/~に至って(は)/~に至っても
「動ー辞書形」/「名」+に至る/に至るまで/に至って(は)/に至っても ~になる/~になるまで/~になって(は)/~になっても 彼らの、結婚に至るまでのロマンスをお話ししましょう。
行き着く先、結果、範囲などを示す。 兄が起こした会社は発展を続け、海外に支店を出すに至った。
その若者は頭の先から足の先に至るまで、おしゃれをきめこんでいた。
自殺者が出るに至って始めて、いじめ問題の深刻さがマスコミに取り上げられるようになった。
大多数の住民が反対運動に参加するという事態に至っても、なお原子力発電所の建設計画は撤回されなかった。
「ことここに至っては」<こうなってしまっては> ことここに至っては、手のほどこしようもない。

36 ~にかかわる
「名」+にかかわる ~に関係する・~に影響を及ぼす 彼は交通事故で、命にかかわる大けがをしたそうだ。
「~」の部分には、大切なことや重大な内容がくることが多い。 負ければ大国の威信にかかわるとあって、無意味な戦いが続けられた。

37 ~にたえない
「動ー辞書形」+にたえない ~をがなんできない ああいう陰口が聞くにたえません。
最近、見るにたえないほどひどい番組がある。

「名」+にたえない ~をとても強く感じる いろいろお世話になりまして、感謝にたいません。
事故にあった方々のことを思うと、同情の念にたえない。

38 ~にたえる
「動ー辞書形」/「名」+にたえる どうにか~に値する・どうにか~することができる 趣味で始めた焼き物だが、ようやく市販するにたえる作品ができるようになった。
あの子は、大人の鑑賞にたえる絵を描く。

39 ~はおろか
「名」+はおろか ~はもちろん 私は半年前に来日した時は、漢字はおろか平仮名も読めませんでした。
普通「AはおろかBも/さえ/まで」のように強調して表現されることが多い。 うちの弟は内気で、人前でスピーチはおろか簡単なあいさつさえできない。
AとBは比べることが出来る内容で、程度や価値に差がある。
文全体は否定的な内容となることが多い。その場合は、Aの方が程度や価値が高い。

40 ~までもない/~までもなく
「動ー辞書形」+までもない/までもなく ~する必要はない そんな簡単な用事のために、わざわざ行くまでもない。
今さら注意するまでもなく、喫煙は健康に大きな害を及ぼします。
「言うまでもない/言うまでもなく」<言う必要のないのはもちろんのこと。 今さら言うまでもなく、学生の本分は勉強です。
当然、当たりまえの気持ちを表す。>
「~までもない」は文末に使われるか、あるいは後ろに名詞がくる。
「~までもなく」の後ろには動詞・形容詞・副詞がくる。

41 ~まみれ
「名」+まみれ ~がたくさんくっついている どしゃ降りの中で試合が続き、選手たちは皆泥まみれだ。
表面全体に何かがくっついている状態。汚いものやよくないものの場合が多い。 車の下からはい出してきた修理工は、油まみれだった。

42 ~ものを
「動・い形・な形」の名詞修飾型+ものを ~のに 電話で話せば簡単なものを、彼はわざわざ本人に会いに出かけた。
不満や後悔や残念な気持ちなどを表す。 早く言えばいいものを、何も言わないんだから。
「~ものを。」と、後ろの文が省略されることも多い。 僕に連絡してくれば、迎えに行ってあげたものを。

43 ~や/~や否や
「動ー辞書形」+や/や否や ~とすぐに・~とほとんど同時に サイレンが聞こえるや否や、皆一斉に立ち上がった。
続いてすぐに後の動作をする、あるいは何かが起こることを表す。 エレベーターのドアが開くや、猫が飛び出してきた。

44 ~ゆえ(に)/~ゆえの
「動・い形・な形・名」の名詞修飾型+ゆえ(に)/ゆえの ~のために・~だから ストリートチルドレンが殺害された事件は、貧しさゆえの悲劇だ。
「な形」の「な」と「名」の「の」はつかないことがある。 文語体。原因、理由の表現。 動かぬ証拠があるゆえ、有罪が確定した。
「~がゆえ」という形で使われることもある。
「~ゆえ(に)」の後ろには動詞・形容詞・副詞が、「~ゆえの」の後ろには名詞がくる。
「ゆえに」は接続詞として文頭に使うこともできる。 我思う。ゆえに我在り。

45 ~をかぎりに
「名」+をかぎりに ~を最後として・~までで その映画の上映は15日をかぎりに打ち切られることとなった。
今日を限りに、この学校ともお別れです。
「~をかぎりに/~の限り」<「精一杯、限界まで」の意味で用いられる慣用的表現。> ボートが沖へ流されてしまい、子供達は声をがきりに叫んでいる。

46 ~んばかりだ/~んばかりに/~んばかりの
「動ーない形」+んばかりだ/んばかりに/んばかりの 今にも~しそう・まるで~しそうな様子 彼女にOKの返事をもらって、彼は、躍り上らんばかりの喜びようだ。
「~んばかりに」の後ろには動詞・形容詞・副詞が、「~んばかりの」の後ろには名詞がくる。 大風が吹いて、街路樹の枝が今にも折れんばかりだ。
恩師はわたしの手をとらんばかりにして、合格を祝してくださった。

47 ~が最後
「動ーた形」+が最後 ~たらそれっきり・いったん~たらそのまま うちの息子は寝入ったが最後、雷が鳴ろうが地震が起ころうが、絶対に目を覚まさない。
課長はカラオケが大好きで、マイクを握ったが最後、だれにも渡さない。
48 ~かたがた
「名」かたがた ~を兼ねて 無事に卒業できたので、恩師に報告かたがた、手紙を書いた。
一つの行為が二つの目的のために行われる時の改まった表現。 ごあいさつかたがた、お伺いしました。

49 ~かたわら
「動ー辞書形」/「名ーの」+かたわら ~一方で 私の母は自分が編み物を習うかたわら、人にも教えている。
何か主なことをしているほかにもう一つのことを行っている状況を表す。 彼は銀行員としての仕事のかたわら、作曲もしていました。
長い間続けていることに用いる場合が多い。

50 ~極まる/~極まりない
「な形ー◯」+極まる/極まりない 非常に~・とても~・この上なく~ 信号を無視して突っ走るなんて、危険極まる行為だ。
話し手がそのことに対して強い感情を持っている時に用いる。 優勝を逃して、残念極まりない。

51 ~ごとき/~ごとく
「動ー辞書形/た形」/「名ーの」+ごとき/ごとく ~ような/~ように 前述したごとく、会議の日程が変更になりましたのでご注意ください。
文語体のたとえの表現。 その少年は飛ぶがごとき勢いで、駆け去った。
良子は白百合のごとき乙女であった。

「名」+ごとき/ごとく ~なんか・~など 私ごとき未熟者にこんな大きな仕事ができるのかと心配です。
否定的にとらえて表現する時に用いる。 おれの気持ちが、お前ごときにわかるものか。
「~ごとき」の後ろには名詞が、「~ごとく」の後ろには動詞・形容詞・副詞がくる。

52 ~ことなしに
「動ー辞書形」+ことなしに ~(し)ないで 担当教師の許可を得ることなしに、履修科目の変更はできない。
よいお返事をいただくことなしに、帰るわけにはまいりません。

53 ~ずくめ
「名」+ずくめ ~ばかり 試験には合格するし、恋人はできるし、いいことずくめですね。
全部・全体がそればかりの状態であることを表す。 黒ずくめの男が、さっきから門の前に立っている。

54 ~ずにはおかない
「動ーない形」+ずにはおかない ~ないでは許さない・~ないでは終らない 彼女のスピーチは聞く者に感動を与えずにはおかなかった。
「する」は「せずにはおかない」となる。 「必ずそうする」という意思や、「必ずそうなる」という状況を表す。 そんなことをしてみろ。痛い目にあわせずにはおかないぞ。
あんなひどいことをされたのだから、仕返しをせずにはおかない。

55 ~たりとも
「名」+たりとも ~であっても 世界平和会議では、小国たりとも平等に議決権を有している。
わずか、少ない、小さい、弱いなどを強調する表現。 もう時間がない。1分たりとも無駄にできない。

56 ~つ~つ
「動ーます形」+つ+「動ーます形」+つ ~たり~たり ラッシュアワーの車内で、乗客は押しつ押されつしている。
対照的な内容をもつ二つの動詞が用いられる。 彼と私はもちつもたれつの関係です。
「ためつがめつ」<様々な角度からよく見ながら> 彼女はそのセーターをためつがめつ、買おうかどうしようかと迷っている。

57 ~といったら(ありはし)ない
「動ー辞書形」/「い形ーい」/「な形ー(だ)」/「名ー(だ)」+といったら(ありはし)ない とても~だ 一週間もお風呂に入らないんだもの、汚いといったらありゃしない。
「動」と「名」はその内容が程度を表すことのできるものに限られる。 話し言葉では「~といったらありゃしない」、「~ったら(ありゃし)ない」もよく使うが、 このところ残業続きで疲れるといったらない。
この場合はあまりよくない内容を表すことが多い。 飛行機の窓から見えたオーロラの美しさといったらなかった。

58 ~とは
「動・い形・な形・名」の普通形+とは ~なんて コーヒー1杯で2,000円とは、いくらなんでも高すぎる。
「な形」と「名」の「だ」はつかないこともある。 そのことを取りたてて強調する表現。 こんな失敗をするとは、我ながら情けない。
もう4月だというのに、こんなに寒いとはね。

59 ~ともなく/~ともなしに
「動ー辞書形」+ともなく/ともなしに はっきりと意識せずに、その動作をしている時の表現。 見るともなくぼんやり外を見ていたら、不意に大きなカラスが飛んできた。
前後に同じ動詞がくることが多い。 寂しい夜は、だれかから電話がかかってくるのを持つともなしに待っている。

60 ~ともなると/~ともなれば
「動ー辞書形」/「名」+ともなると/ともなれば ~になると/~になれば 一人前の大人ともなれば、自分の言葉に責任を持たなければなりません。
急に外国へ行くともなると、準備が大変でしょう。
12月ともなると、街にはジングルベルのメロディーがあふれる。

61 ~ないまでも
「動ーない形」+ないまでも ~ないにしても・~ないとしても 彼が犯人だと断定できないまでも、いろいろと怪しいところがある。
普通「AないまでもB」の形で、Aの方に程度が高い内容がくる。 結婚式には出席できないまでも、お祝いの電報くらいは打とう。

62 ~ないものでもない
「動ーない形」+ないものでもない ~する可能性がある 今からでも急げば、ひょっとして終電に間に合わないものでもない。
確信はしていないが、~かもしれないという気持ちを表す。 難しいけれど、何とか工夫すれば、できないものでもないだろう。

63 ~ながらに
「動ーます形」/「名」+ながらに ~(その状態の)ままで インターネットを活用すれば、居ながらにして世界中の情報を手に入れることが出来る。
動詞は「居る」「生まれる」「生きる」など、名詞は「涙」「昔」「いつも」などの限られたものが使われ、 その少年は生まれながらに動物たちと心の交流ができる不思議な能力を備えていた。
慣用的な表現が多い。 薬害の被害者たちはこれまでの苦しい経験を涙ながらに語った。

64 ~なくして(は)
「名」+なくして(は) ~なしでは・~がなければ 監督の熱心な指導なくしては、今回の優勝はなかっただろう。
仮定の表現。 人々の信頼なくして、リーダーの務めは果たせない。

65 ~なしに(は)
「名」+なしに(は) ~をしないで・~がないままで ノックなしに私の部屋に入らないでください。
きちんとした手続きなしには入学することはできない。

66 ~ならでは
「名」+ならでは ~だけにある・~だけができる こんな新しい発想はあのデザイナーならではのものです。
よい内容を表すことが多い。「AならではBない」の形をとる場合は、「AでなければBできない」の意味。 この味はおふくろの手作りならでは出せない味だ。

67 ~なり~なり
「動ー辞書形」/「名」+なり+「動ー辞書形」/「名」+なり ~でも~でも 勉強ばかりしていないで、たまには外に遊びに行くなりスポーツをするなりして、気分転換をしたらどうですか。
普通「AなりBなり」の形で、A、Bには対照的、並立的あるいは類似の内容を例示する。 ジュースなりコーラなり、お好きなものをどうぞ。

68 ~に(は)あたらない
「動ー辞書形」/「名」+に(は)あたらない ~に(は)適さない・~に(は)及ばない・~する必要はない 大口の寄付をしても、節税のためならば、その行為は賞賛にはあたらない。
彼の実力を考えると、今回の彼の受賞も驚くにあたらない。

69 ~に即して/~に即した
「名」+に即して/に即した ~に従って・~に応じて・~の通りに 実情に即した対応策を検討致します。
「~に即して」の後ろには動詞・形容詞・副詞が、「~に即した」の後ろには名詞がくる。 違反者は、法律に即して処分されます。

70 ~に足る
「動ー辞書形」/「名」+に足る ~だけの価値がある 危険をかえりみず乗客の生命を救った彼の行為は、称賛に足るものだ。
「名」は「~する」の形をとることのできるものに限られる。 よい内容を表す。 あの人は信頼するに足る人物だ。
「~に足らない/~に足りない」<~だけの価値がない・~ほどのことはない> 宇宙の大きさを思うと、今の私の悩みなんて取るに足らないものだ。
厳冬期の登山でも、十分な準備をしていれば、危険など恐れるに足りないと思う。

71 ~にひきかえ
「動・い形・な形」の名詞修飾型+の/「名」+にひきかえ ~に比べると反対に 先月は食料品の売上げが著しく伸びたのにひきかえ、衣料品の売上げが落ち込んだ。
「名」と「な形」は「~である+の」の形をとることもある。 前の作品にひきかえ、今度のは素晴らしいできだ。
去年の夏が猛暑であったのにひきかえ、今年は冷夏が心配されている。

72 ~にもまして
「動・い形・な形」の名詞修飾型+の/「名」+にもまして ~よりもさらに 通訳の試験に合格して、うれしいのにもまして、果たしてうまくやれるかどうか心配になってきた。
「な形」は「~である+の」の形をとることもある。 「AにもましてB」は「Aもそうだがそれ以上にB」の意味。 試合に勝ったのにもまして、全力を出しきれたことを誇りに思う。
以前にもまして、彼女はピアノの練習に励んでいます。

73 ~ばこそ
「動ーば」/「い形ーければ」/「な形ーであれば」/「名ーであれば」+こそ ~からこそ 忙しければこそ、集中して、少ない時間を有効に使えるのかもしれない。
原因・理由の強調の表現。 優勝できたのは、チーム全員の協力あればことだ。
健康であればこそ、勉学やスポーツに熱中できるというものだ。
彼女が有能な教師であればこそ、学生も熱心に講義を開くのです。

74 ~ばそれまでだ
「動ーば」+それまでだ ~ば、それで終わりだ どんなにいい機械があっても、使い方がわからなければそれまでだ。
それ以上やりようがない、仕方がないという表現。 長年勤めた会社だが、退職してしまえばそれまでだ。

75 ~べからざる
「動ー辞書形」+べからざる ~べきではない・~てはいけない・~のは適当でない 成人指定映画は青少年の見るべからざるものです。
「するべからざる」は「すべからざる」となることもある。 「~べからざる」の後ろには名詞がくる。 口にすべからざることを言ってしまい、彼とは絶交状態になってしまった。

76 ~べからず
「動ー辞書形」+べからざる ~てはいけない 雑誌を立ち読みするべからず。
「するべからざる」は「すべからざる」となることもある。 掲示・看板・立て札などに用いられる禁止の表現。 芝生に立ち入るべからず。
池の魚をとるべからず。

77 ~べく
「動ー辞書形」+べく ~しようと思って 試験に合格すべく、皆一生懸命に勉強している。
「するべく」は「すべく」となることもある。 恩師に会うべく、久しぶりに母校を訪れた。

78 ~まじき
「動ー辞書形」+まじき 当然~てはいけない・~てはならない 多額の賄賂を受取るなど、大臣にあるまじき行為だ。
「するまじき」は「すまじき」となることもある。 「~まじき」の後ろには名詞がくる。 弱い者をいじめるなんて、許すまじきことです。

79 ~まで(のこと)だ
「動ー辞書形」+まで(のこと)だ ~以外に方法がない 彼に断られればあきらめるしかない。他の人を探すまでのことだ。
仕方がないからそうするという覚悟や決意を表す。 留守なら仕方がない。ここで帰って来るのを待つまでだ。

「動ー普通形」+まで(のこと)だ ただ~だけだ 大した間違いじゃないんだが、うちの経理係は書類の書き方にうるさいから、注意しているまでなんだ。
ただそれだけの事情や理由であると説明したり、言い訳したりする時の表現。 君にはあまり関係ないかもしれないが、念のために知らせたまでのことだ。

80 ~めく
「名」+めく ~の様子である・~の様子になる・~のような感じがする そんな皮肉めいた言い方をしないでください。
「~めく」はⅠグループの動詞と同様に活用する。 野山が薄緑になり、すっかり春めいてきた。

81 ~もさることながら
「名」+もさることながら ~もそうだが、そればかりでなく 両親の意向もさることながら、子供自身が有名校にあこがれている。
前のことももちろんだが、後に述べられることの方がもっと度合いが強いということを表す。 歌のうまさもさることながら、彼女はピアノの名手なんです。

82 ~をおいて
「名」+をおいて ~のほかに この仕事を任せられるのは、あなたをおいては考えられない。
「~をおいて~ない」の形で使われることが多い。 彼をおいて議長適任者はいない。

83 ~を禁じ得ない
「名」+を禁じ得ない ~をがまんできない・~しないではいられない 行政の怠慢によって薬害の被害者が多く出たことに、怒りを禁じ得ない。
感情を表す内容の場合が多い。 彼女の身の上話を聞いて、涙を禁じ得なかった。

84 ~をもって
「名」+をもって ~で 彼は人一倍の努力をもって優勝カップを手にすることができた。
手段・方法などを表す。 審査の結果は書面をもってお知らせします。

「名」+をもって ~で これをもちまして本日の披露宴をめでたくお開きとさせていただきます。
開始、終了、限界点などを明示する。あいさつなどに用いられる固い表現。 本日の営業は午後7時をもって終了致します。

85 ~をものともせずに
「名」+をものともせずに ~を問題にしないで 度重なる失敗をものともせずに、宇宙開発計画が進められている。
障害になるようなものを乗り越えて何かを行うことを表す。 エジソンは周囲の非難をものともせずに、実験を続けた。
普通、話し手以外のことについて述べる時に用いる。

86 ~を余儀なくされる/~を余儀なくさせる
「名」+を余儀なくされる/を余儀なくさせる 仕方がなく~される・~させられる/~させる 貿易交渉の結果、A国はB国に関税の引下げを余儀なくさせた。
「余儀なくされる」は受け身、「余儀なくさせる」は使役の内容を表す。 不況のため労働者は賃金カットを余儀なくされてしまった。
主に文章に用いられる固い表現。 資金不足から、臨海開発計画は停滞を余儀なくされている。
不意に起こった雪崩が登山計画の中止を余儀なくさせだ。

87 ~をよそに
「名」+をよそに ~をかえりみないで・~を関係ないものとして 留学をひかえ、周囲の心配をよそに、本人はのんきに構えている。
住民の不安をとそに、原子力発電所の建設工事が始まった。

88 ~んがため(に)/~んがための
「動ーない形」+んがため(に)/んがための ~しようと思ってそのために 試験に合格せんがため、この1年間努力を続けてきた。
「する」は「せんがため」となる。 文語体の固い表現。 弱肉強食は生物間のバランスを保たんがための自然界の法則だ。
「~んがため(に)」の後ろには動詞・形容詞・副詞が、「~んがための」の後ろには名詞がくる。 長年の夢を実現させんがため、留学を決意した。

89 ~あっての
「名」+あっての ~があるからこそ 学生あっての教師ですね。逆に学生に教えられることも多いですよ。
普通「AあってのB」の形で用いられ、「AがあるからこそBの存在がある」の意味。 日々の練習あっての勝利だ。
「命あっての物種」<何をしても、何か得られでも、命を失っては何もならない。 そんな危険なことをするものではない。命あっての物種だ。

90 ~からある/~からの
「名」+からある/からの ~もある その男は30キロからある荷物をひょいと肩に担いだ。
大きさ、多い、重い、長いなどの内容を強調する表現。 山道で長さ3メートルからある蛇に出くわした。
具体的な数量を表す名詞とともに用いれる。 彼女は5億円からの遺産を相続したそうだ。

91 ~こととて
「動・い形・な形・名」の名詞修飾型+こととて ~ので 引っ越してきたばかりで、辺りの様子もわからないこととて、どうぞよろしくお願い致します。
動詞否定形の「~ない」は「~ぬ」になることもある。 原因・理由を表す。固い改まった言い方。 何も知らぬこととて、失礼を致しました。
今回の転勤は急なこととて、ゆっくりごあいさつにも伺えませんでした。
何分にも若い二人のこととて、皆様のご指導をお願い申し上げます。

92 ~しまつだ
「動・い形・な形・名」の名詞修飾型+しまつだ ~という結果になった 弟は昔から両親に手を焼かせていましたが、ついに家出をして、警察のやっかいにまでなるしまつです。
「この」「その」「あの」などとともに用いられることも多い。 悪い内容に使う。 準備のまずさから、その計画は大失敗のしまつだった。
信頼して彼に仕事を任せていたのに、このしまつだ。

93 ~だに
「動ー辞書形」+だに ~だけでも 科学の力で同じ遺伝子を持つ人間を造り出すなど、考えるだに恐ろしいことだ。
文語体。強調の表現。
「想像する」「思い出す」「考える」「思う」「聞く」「口に出す」などの限られた動詞とともに用いられる。

「名」+だに ~さえ 人類が月に行けるがくるなんて、100年前には想像だにしなかったことだ。
文語体。普通「~だに~しない」の形をとり、「~さえも~しない」の意味。 夏の暑い日、風もなく、樹々の葉は微動だにしない。
「夢にだに思わなかった」<全く思わなかった>

94 ~たる
「名」+たる+「名」 ~である 教師たる者、学生に対して常に公平であるべきだ。
話し手が、ある立場を取り上げ、それにふさわしくあるべきだという気持ち 私利を求める人に政治家たる資格はない。
を持っている時に用いる固い表現。

95 ~でなくてなんだろう/~でなくてなんであろう
「名」+でなくてなんだろう/でなくてなんであろう ~以外のことやものだとは考えられない・絶対に~だ 自分の命を犠牲にして多くの人を救ったあの男が英雄でなくてなんだろう。
話し手が強くそう思っている時の表現。 受験戦争、いじめ、これらが日本の教育のひずみでなくなんであろう。

96 ~てやまない
「動ーて形」+てやまない とても~する お二人の幸せをお祈りしてやみません。
話し手が深く強くその気持ちを持っており、いつまでもそう思うということを表す時の表現。 君たちの努力を期待してやまない。
「祈る」「願う」「期待する」などの動詞とともに用いられることが多い。

97 ~と相まって
「名」+と相まって ~と一緒になって 環境破壊と相まって、水や空気の汚染が進んでいる。
「AとB(と)が相まって」の形で用いられることも多い。AとBとが一緒になって、 コーチの指導力と選手のやる気が相まって、優勝できた。
一層その状態や効果が出ていることを表す。 実力と運とが相まって、彼を成功に導いた。

98 ~というところだ/~といったところだ
「動ー辞書形」/「名」+というところだ/といったところだ 大体~だ ゴールデンウイークといっても、我が家ではせいぜい日帰りで郊外に出かけるというところだ。
多くても、あるいはよくてもそれくらいだという気持ちを表す。 パーティーの参加者は、70人から80人といったところでしょう。

99 ~ないではおかない
「動ーない形」+ないではおかない 半ば強制的に~させる・必ず~する 医者の一言は私を不安にさせないではおかなかった。
今度こそ、本当のことを言わせないではおかないぞ。

100 ~にかたくない
「動ー辞書形」/「名」+にかたくない 簡単に~できる 宇宙飛行士の長期間の訓練にはいかに苦労が多いか、想像にかたくない。 難くない かたくない
「察する」「想像(する)」などの限られた言葉とともに慣用的に用いれる。 子供を亡くした親の悲しみは、察するにかたくなる。 察するに さっする

101 ~にして
「名」+にして ~だから・~でも 優等生の彼女にして解けない問題なのだから、凡才のわたしにとけるわけがない。 ユウトウセイ 解けない問題なのだから ぼんさい 盆栽 ぼんさい
「~」の部分には話し手が、程度が高い、よいと思っているものがくる。 この味は経験を積んだプロの料理人にしてはじめて出せる味だ。
「~だから」の意味に用いる時は「~にしてはじめて」の形をとることが多い。

「名」+にして ~であって同時に 彼は出版社の社長にして詩人でもある。

102 ~の至り
「名」+の至り 非常に~ 全社員の前で仕事上の大きなミスを指摘され、赤面の至りだ。
程度がとても激しいという気持ちを表す。慣用的な古い表現。 こんな立派な賞をいただきまして、光栄の至りです。
「若気の至り」<若さのせいで無分別な言動をとってしまうこと。> 若気の至りで、あんな大きなことをいってしまい、本当に恥ずかしい。

103 ~の極み
「名」+の極み 非常に~ 遠いところをわざわざお起しいただきまして、恐縮の極みでございます。
「これ以上の~はない」というように、その程度が限度までいっている状態を表す。 徹夜続きで、疲労の極みに達している。 

104 ひとり~だけでなく/ひとり~のみならず
ひとり+「動・い形・な形」の名詞修飾型/「名」+だけでなく/のみならず ただ~だけではなく 喫煙はひとり本人に有害であるのみならず、周囲の者にとっても、有害かつ迷惑なものである。
「名」と「な形」は「~である」の形になることもある。 普通「ひとりAだけでなくBも」の形で用いられ、「ただAだけではなくBも」の意味。 リーさんのかかえている問題は、ひとり彼女が悩んでいるだけでなく、ほかの留学生たちにも共通の問題である。
「~のみならず」に接続する場合、「な形」は「~である」の形になる。 「のみならず」は文語体。 出世数の減少は、ひとり日本のみならず、西欧諸国においても同様にみられる傾向である。

105 ~を皮切りに(して)/~を皮切りとして
「動ー辞書形/た形」+の/「名」+を皮切りに ~をはじめとして・~したことから始まって 朝の連続ドラマに主演したのを皮切りに、彼女はスターへの道を歩み始めていた。
その後に同じようなことが次々に行われる時の表現。 競技場では、100メートル競走を皮切りにとして、次々に熱戦がくり広げられた。



有害ゆうがい